
CARTA ZEROでエンジニアをしているmarching-cubeです。 2007年の春、ポーランドから留学生として日本へやってきました。
毎年夏になると、日本語の小説(たいていはミステリ)を一冊買い、今度こそ最初から最後まで読むぞと自分に約束する。残念ながら、いざ勉強となると、つい教科書どおりにやってしまい、ページを飛ばさず一語一句を追い、意味も全部調べてしまう。このやり方は驚くほど時間がかかり、最後まで読み切る根気が続かないことが多い。だいたい100〜200ページ進んだあたりで、仕事や生活に引き戻される。今年も例外ではなかったが、毎回の試みから学ぶことは多い。
学ぶことは根気と努力だが、テクノロジーがそれを誰にでも手の届くものにしてくれる。短い記事では、過去を振り返りつつ、学習を可能にし、ときに楽しいものにしてくれる素晴らしいツールを展望したい。教科書や教室、個別に質問に答えてくれる先生がいない自己学習では、越えるべきハードルが多い。幸いこの20年ほどで、ソフトウェア—の進歩は目を見張るものがあった。ごく最近では、LLMチャットボットがその「穴」を埋めてくれると約束してくれており、そこにワクワクしている。
その前に、まずは基礎から。
Part 1: 前史(2005年前後)
辞書は留学生が頼りにする最も基本的で頼もしい道具です。だが紙の辞書は携帯性に乏しく、非ネイティブにとって必ずしも使いやすいとは限らない。漢字の扱いがまず難関で、読みが分からなければ引けない。やっと項目にたどり着いても、説明の中にさらに難しい語が出てきて…といった具合で、ハードルは意外に高い。
2000年代、紙の辞書に代わる主流は電子辞書だった。AAA電池(単4形)で動き、当初はモノクロ液晶、小さく打ちやすいキーボード、折りたたみ式のクラムシェル。見た目はニンテンドーDSと極小ノートPCの中間。手頃とまではいかなくても、学生が手を伸ばせる価格帯。文字入力、ハイパーリンクの追跡、スタイラスでの手書きまでできた。当時、留学生の必携ガジェットといってよかった。この20年で多くが変わった(iPhone!)とはいえ、いまでもAmazonでカシオ、シャープ、キヤノンの新品モデルを買える。価格は機種によるが、おおむね2万〜5万円程度。

Part 2: iPhoneの登場
「電子辞書」を今あえて勧めるのは難しい。いまや誰もがスマートフォンを持ち歩いているからです。初代iPhoneは2007年に登場し、本当に使えるようになるまで数年を要したものの、ガジェットの風景を決定的に変えた。現在の私のお気に入り学習端末は11インチのiPadです。iPhoneほどは携帯しやすくないが、同等の機能に加えて大きな画面とApple Pencilが使えます。
ほぼ毎日使う主な機能は3つあります
- メモ(Notes)アプリ: もっと良いアプリでも、紙のノートでも構わないです。要は語彙リストを打ち込み、いつでも見返し・更新できるようにしておくこと。
- 「調べる」機能: iOS/iPadOS/macOS上のほぼあらゆる単語をタップして、「スーパー大辞林」や「ウィズダム和英辞典」といったプロ用辞書の項目を呼び出せる。タッチでのテキスト選択は少し気難しいが、MacならキーボードショートカットのCommand+Control+Dが使えます。
- 「ビジュアルインテリジェンス(Visual Intelligence)」=カメラのOCR: 紙面を撮影するか、カメラを文字に向ければ、そのまま「調べる」を使える。うまくいくときは近未来のサイバーパンク魔法のようで、最強クラスの道具だと感じる。ただし、ピントやロック、文字選択UIにクセがあるのも事実。
これらは地味に見える—ChatGPT級のブレイクスルーではないかもしれない。だがOSに組み込みで搭載されているおかげで実用性が高く、疑問の8割はここで解決する。
Part 3: 最後の1割はAIに任せる
自分にとってChatGPT(ほかのLLMチャットボットも含む)の真価値は、残りの2割を埋め、理解の最後のひと押しをくれるところにある。もちろんこれはあくまで個人的な経験で、現時点ではまだ比較的慎重に使っているだから。1〜2年もすれば、さらに多くを引き出せるようになっているかもしれない。
現時点でLLMが有用だと感じる場面をいくつか。
例1: 単語の切れ目と文全体の理解
これは分かりやすい。LLMは文全体の意味理解と説明が得意。見た目は簡単そうなのに、ひらがなが長く続くとどこで語が切れるのか、辞書で何を引けばよいのか分からないことがある。「調べる」は認識する文字や活用形に気難しい面もある。LLMなら問題ない。文を丸ごと貼り付けて、ステップごとの解説を頼めばよい。
小説からのささやかな例: 「入り口とおぼしき扉の脇にひっそりと出ていて…」。実際はもっと長い一文だったが、ポイントは「〜とおぼしき」のような、少し戸惑う表現を含めて、短い単位に分解して説明してくれること。
例2: 自然な説明から漢字を特定
iPhoneのカメラにOCRが組み込まれたことで、未知の漢字をコピーして調べるのはたいてい簡単になった。とはいえOCRがうまく働かないこともあるし、撮影の時間がないときもある。そんなときは、見た目を言葉で説明してLLMに尋ねられる。例えば「門に木が入ったような漢字って何?」のように。続けて、その漢字を含む語を挙げてもらうのも有効。
例3: 文法形式の取り扱い
文法形式は目の前にあるのに見落としがちで、どこまでが語で、どこからが文法なのか判然としないことがある。例えば「優しげ」のような語なら、同じパターンで「〜げ」語を派生できる。あるいは「行きつ戻りつ」のような言い回し。うまく質問すれば、関連例や用法、出現しやすい文脈まで含めてLLMが説明してくれます。
例4: 正しい読み方はどれか
新しい語の読みを見極めるのは意外と難しいです。「足速に」はどう読むのか。手元の辞書だと「あしばや」または「おはや」と出るが、どちらかのヒントはない。さらに悪いことに、「大人」を引いたら最初に「うし」という読みが出てきて、目が点になったりもする。人名・地名になるともっと厄介で、架空のものと実在のものが混じる。LLMは、一般的な読みを当てたり、すでに物語に登場した人物を踏まえて整理したり、「うし」と出る背景まで説明したりと、けっこう頼りになる。
例5: LLMによる脚注づくり
現代日本、あるいはノスタルジーを帯びた時代を舞台にした物語には、実在の出来事や人物(例:つくば科学万博)や、学校で習う常識的な知識(例:八つ切り大のスケッチブック)への言及がよく出てくる。LLMは基礎知識への回答にとどまらず、虚構と現実の参照を見分けるのも意外に得意です。まるでオンデマンドの脚注のように使える。
LLMについての雑感
受け身のQ&A的なやり取りでもLLMにはだいぶ助けられています。ただ、カスタマイズやインタラクションの余地はまだ大きいとも感じる。例えば、これまでに調べた語の一覧をまとめてもらう、そこから小テスト(quiz)を作ってもらう、メモ(Notes)アプリに手入力で溜めた断片を定期的に整形・補完してもらう、といったこと。試せることはまだたくさんあります。
もちろんLLMは幻覚(hallucination)を起こし、でっちあげることがある。説得力のある記事のURLを捏造したり、存在しないライブラリのインポートでバグ修正を提案したり—そんな誤りは日常茶飯事だ。それでも、日本語学習の場面では影響が比較的軽く、そしてLLMは自然言語を扱うのに特に向いていると感じている。ネイティブらしい言い回しをそれらしく模倣できる力自体が、すでに大きな価値でした。
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