2022年1月、CARTA HOLDINGS(以下、CARTA)の新CTOに鈴木健太(@suzu_v、写真左)が就任しました。2012年、VOYAGE GROUP(現CARTA)にソフトウェアエンジニアとして入社し、幅広い領域で開発に従事。「すずけん」の愛称で親しまれてきました。
一方、前CTOである小賀昌法(@makoga、写真右)は、VOYAGE GROUP時代から10年に渡り、エンジニアリングの観点から幅広く経営に携わってきた存在です。
小賀さんのCTO就任当時からのこれまでの10年、そしてCTO交代の経緯やCTO退任後にチャレンジする領域についても聞きました。
(記事内の写真は、撮影時にのみマスクを外して撮影しています)
後編はこちら:新旧CTO対談 後編「これからのCARTAエンジニアリング」
CTOに就任した当時の状況
鈴木健太(以下、すずけん):小賀さんは2010年から約10年、CTOを務めてらっしゃいました。就任当時はどんな状況だったのか振り返っていただけますか。
小賀昌法(以下、小賀):2010年1月に入社して、同年7月にCTO就任となったんですが、実は入社前からECナビ(その後のVOYAGE GROUPそして現在CARTA)という会社については知っていました。というのも、2008年頃に社内のエンジニアの一人である ajiyoshi が「SICP勉強会やるよ」ってTwitterにつぶやいたんです。そこで私が社外から「是非参加したいんだけど」と声をかけて、定期的に参加していたという経緯があったんですよね。
良いエンジニアと文化の土台
小賀:SICP勉強会に参加しつつ、終わった後にはAJITO(社内BAR)でちょっと一杯飲んだりして他のメンバーとも話していくうちに、この会社はすごく良いエンジニアがいっぱいいるなと思ったんですよね。入社した後もその印象は変わっていなくて、知名度は低い会社だけれど「エンジニアの質」とか「できるエンジニアの密度」は高いし、何よりも「楽しそうに働いてる」エンジニアが多いのがすごく良いなと。
すずけん:今も楽しく働いているエンジニアが多いですけど、当時から既にそういう文化があったということなんですね。
小賀:まだ言語化されていないけど、良い文化の土台があったって感じかな。そして何回か勉強会に参加したあとに、社長の宇佐美さん(現・CARTA HOLDINGS 会長)とご飯でもと誘われて。その時に宇佐美さんに対して「この人は凄くエンジニアを楽しく働かせて、かつ金儲けができる人なんだな」っていう感覚を持ちました(笑)
すずけん:なるほど(笑)
小賀:その時に「エンジニアのチームをこういう風にしていくと良いと思う」という話ですごく意気投合して、入社後に宇佐美さんから「CTOをやってくれないか」といわれた時も、一緒に話をした組織に対する未来のイメージがあったから「やらせてもらいます」という感じだったんですよね。
初代CTO
すずけん:そもそも当時は、社内にCTOという仕事をしていた人はいなかったんですよね?
小賀:そうそう。なので、なにをやるかも一緒に考えていきましょうという感じでした。でも、エンジニアのいい文化の土台みたいなものがあるし、さらに良くしていくのはすごくやりがいのある面白そうな仕事だと思って、みんなと一緒にいろいろとやってきました。
すずけん:当時は、CTOを軸にエンジニアの文化に注力していくのは一般的だったんですか?
小賀:当時のCTOの仕事は、技術に特化していて良いシステムを作ることが一般的だったんじゃないかな。今よりは視野が狭かったので、私の観測範囲になかっただけかもしれないけど。でも「CTOは何をやるのか?」をググってみても出てこない時代だったとは思いますね。
すずけん:この10年でいろんな文化や制度が育ってきましたが、小賀さんはどういうことを考えながらやってきたか聞かせてください。
小賀:当初はイメージはあったけど、ビジョンやミッションに落とし込めるほど具体的ではなかったので、現場のエンジニアや他の職種の人たち、役員たちと話をしていく中で課題を見つけて解決していくところから始めました。やっていくうちに見えてくるものがあるだろう、みたいな形で進めていったかな。
組織的な課題と技術力評価会
すずけん:当時も複数の事業がありましたが、エンジニアの組織はどんな感じだったんですか?
小賀:私が入社したのは、事業ごとにエンジニアが所属する事業部制になって3年ほど経った頃で、いわゆる事業部制の弊害が表面化してきたタイミングでした。当時、役員や人事の課題感としてあったのは、「エンジニアが評価に納得していなくて、退職リスクにつながっている」ということ。 当時は、昇格諮問会議というのがありました。エンジニア職の昇格推薦が所属部門から人事に提出されたあと、昇格が決定する前に、人事がエンジニア職の一番高いグレード(等級)の人達に諮問する会議です。
すずけん:この人は昇格して問題ないかを話すような?
小賀:そう。上位グレードの能力があるかどうか話し合っていました。このやり方は事業部制になる前までは上手くいってたんです。でも事業部制になって何年か経った後、徐々に他の事業内での状況が見えづらくなり、能力を測るのが難しいという状態になっていった。
すずけん:なるほど。
小賀:当時、私から見て組織的な課題が3つあったんですよ。
1つ目は、短期的なスピードをすごく重視していること。エンジニアがエンジニアを評価する時は、見えにくい仕事も評価できるけど、エンジニアリングの専門家ではない事業責任者が評価する時は、どうしても見えやすいリリースなどを重視することが多くなっていました。リリースを大事にすることは悪いことじゃないけど、ちょっと重視しすぎていた。
2つ目は、エンジニア自身が評価に納得をしていなかったということ。
3つ目は、採用・育成・評価の価値観が統一されていないこと。評価を良くしようと考えると、採用と育成もトータルで考える必要があるけど、エンジニア職の能力に関しては連動していなかった。例えば、中途採用を事業部毎の基準でやって、評価は全社で統一しましょうとなると上手くいかない。育成も部署毎にバラバラにやると、異動した時にこの人はこのグレードなの?とになったりする。
この「短期的なスピードの重視」「エンジニアが評価に納得していない」「採用・育成・評価の価値観が統一されていない」という3つが課題としてありました。 そこから、エンジニアがエンジニアの仕事をレビューするピアレビューというのをやったことをきっかけに、チームを越えてエンジニア同士が技術力を評価する「技術力評価会」が立ち上がり、現在につながっていきました。元々、評価のサイクルが半年に1回なので、そのサイクルに沿って技術力を評価する仕組みを作っていったのは悪くなかったなと思います。
すずけん:なるほど。内部品質やテスタビリティとか堅牢にコードを書くことは、大事なのはエンジニアは分かってるけど、例えば内部品質を上げるところに投資していたら「鈴木君。コードをすごく綺麗にしたらしいけど、あまりスピードが出てなかったよね?」っていわれたら、それは確かに納得しないですよね...。
小賀:でも、これは長く続くサービスが増えてきたからこそ、見えてくる課題なんだよね。事業を作っても短いサイクルで潰れていくだけだと、見えにくいんだけど、事業が上手くいってサービスを長く続けるほど、大きな課題になっていく。 私が入社したのは「ECナビ」というサービスが8周年の時期で、それくらい続いていると技術的負債も溜まってくるじゃないですか。内部品質も重視しましょうと強く推進したのは、いいタイミングだったんじゃないかなと思います。
すずけん:そうですね。今は定着して、自分たちの価値観はこういうところにあるんだなって思っています。それと、技術力評価会の立ち上げ時に課題にしたことは、長くみんなで取り組んできたからこそ、複利で資産になってきてるなと思っています。みんなと評価の課題を共有してやってきたからこそ、当事者として考える人がすごく増えて、結果として当時の課題が裏返って、僕らのエンジニアリングの特徴や強みになっている。これは、続けてきたからこそなんだなって思いますね。
小賀:そうだね。「やるぞ」「それが大事だよね」というのは、割と早くみんなそういう気持ちになったけど、チームの習慣になって、プロダクトに反映されるまでは、やっぱり3〜4年かかったと思います。
会社をエンジニアリングする
すずけん:評価制度って会社のOS(Operating System)に近い部分じゃないですか。
小賀:はい。
すずけん:OSに近い評価制度の上に、エンジニアのスキル評価をアプリケーションとして作っていったのはすごいなと思いました。会社のOSに近い部分って変えられるのかな?って感じると思いますし。
小賀:そうなんだよね。一般的には評価制度は人事部の管轄であり、しっかりと矜持を持ってやってると思う。だから変えるのが難しい領域の一つなんだけど、私の場合は既にあったものを利用したんだよね。
もともと「事業貢献・実績」と「能力」は、それぞれ独立して評価してトータルで判断するという考え方だったから、「能力」に関して、専門職であるエンジニア職はCTOが少し主導させてもらうのはどうかな?というのは、やりやすかったんだよね。
私のやり方としては、既存の仕組みやサイクルの一部分だけ変えることで、良くできるところを探す。システムを変更するときも同じことを考えるけど、切り出して、影響範囲を局所化して、もし何か問題があっても、他への影響が最小になるように変更するにはどうしたらいいんだろうかと。リアーキテクティングしてからやるのか、今のアーキテクチャでもやれるのかを考える。評価制度に関しては、「能力」の部分を切り出してリアーキテクティングできそうだなと思って、そこから取り組みました。
すずけん:なるほど。
小賀:しかも、役員も人事も課題を感じていて何とかしたい思いがあったから、その「能力」の部分をCTOが持つことに納得感があったんだよね。
すずけん:課題に共感できないと、提案してもなかなか納得できないですもんね。
小賀:そして「能力」評価をきっかけに、内部品質を上げる取り組みが進んで、エンジニアと事業の両方の成長をカバーできるものになっていった。
すずけん:内部品質が中長期的なスピードに繋がることは、当時から感覚としてはあったけど、会社のOSに近いところへの組み込みは未着手な課題だったと。
小賀:そうだね。すずけんにもエンジニアリングの専門性を持った役員として、会社というOSの中でも特にレバレッジが効く部分に対して、破壊的な変更ではない方法で上手く変えていって欲しいな。チャレンジがしやすくて、インパクトがあるところを狙って。
それから、短い期間で効果が出るものは現場のみんなに任せていけばいいけど、CTOがやっていくべきことは、長い時間をかけて取り組む必要があるところなんだろうと思う。
すずけん:長い時間軸で取り組むべきところは、会社としてやらないと、仕組みや継続する形になっていかないですよね。技術力評価会の制度は、小賀さんが「絶対やり抜くぞ」と取り組んだから立ち上がったということですよね。
小賀:そうですね。これはもう時間をかけてやるしかないなと。
採用と育成
すずけん:評価と採用や育成はトータルで考えるということで、当時のエンジニア採用はどんな感じだったんですか?採用基準は今と違ったりしていたんですか?
小賀:ベースは変わっていなくて、当初から「楽しく働いている」エンジニアが多かったというのは、事業やサービス、プロダクトを良くするエンジニアリングを楽しんでいた人が多かったということ。 SICP勉強会をやっている時点で技術に興味があるのは分かるけど、それだけじゃなく自分が身に付けた技術力を活かして事業を成長させることをすごく考えるし、楽しく話せる人が多かったんだよね。
すずけん:なるほど。
小賀:だから、技術力評価の中でも重視することの最初に「事業やサービスを理解して自分で考えて作る」というのを持ってきたんだよね。評価制度で明文化して考え方を統一していくと、それに合った人を採用しようとしていく。
すずけん:なるほど。元々の価値観を言語化して制度にしたから、採用でも価値観が合っていくと。
小賀:そう。社内で価値観が合っていくから、面接でもその価値観で見るようになっていく。あと「できるエンジニアの密度が高い」というのは個人的には目指していて、人数が増えても継続できていたと思ってるけどね。ゆえに、採用が難しいのはあるんだけど...。
すずけん:僕も「できるエンジニアの密度が高い」組織は、理想的だと思っています。優秀な人たちが集まって、良いプロダクトを出して、すごく使われるというのは、やっぱりソフトウェアエンジニアの夢じゃないですか。
小賀:そうなんだよね。
すずけん:個々のレベルが高いと、課題がどんどん発展的になって解消されていくじゃないですか。解決すべき課題が発展して、チームとプロダクトのレベルがどんどん上がってく状態が作れるかは、密度の高い組織のポイントなのかなと思っていて。
でも確かに、最初からできるエンジニアを採用しようとすると、全然採用できない問題もあるとも思っていて、この辺は難しいですよね。
小賀:そうだね。できるエンジニアの割合が低いチームだと、できるエンジニアは既存システムのまずい部分を直す時間が増えていく。そうなるとプロダクトは、外部品質も内部品質もなかなか上がらなくなってしまう。 すごくできるエンジニアは数が少ないんだけど、その人たちがプロダクトを良くしていく方向に時間を使うためには、どうしたらいいのかを考える必要がある。できる人の比率が高くなる構造や育成を大事にしたいし、狙ってやったし、今もできてるかなとは思うんだよね。
すずけん:僕も、入社したエンジニアたちが成長していく姿は見ています。特に初めて技術力評価会を受けた人は、ものすごくフィードバックがあることにみんな驚きますよね。そのフィードバックを通してエンジニアが育っていく仕組み作りが、すごく浸透してるなって思ってるんですよ。
小賀:そう。半年に1回フィードバックの機会がある仕組みを作ったけど、この時の「次はこういう所をやっていけるといいよね」というフィードバックが効いてくるのは、実は半年に1回だけじゃないんだよね。
日々のプルリクエストやイシューを書いた時にも、そういう観点で見てもらえたり、評価された側も「評価会でこういうコメントをもらったんですけど、どうですか?」と聞いていたり、日々のフィードバックの中に生かされていく。
そういうところまで根付いてくると、すごく複利で効いてくる。
すずけん:この間、1年目のメンバーが初めて技術力評価会を受けて「いやー、たくさんアドバイスをもらいました!」といっていて、その翌週から「技術力評価会でこういわれたのでやってみました!」ってアピールしてました。早い!と思って(笑)
小賀:評価のために仕事をするわけではなく、事業やプロダクトのためにやるんだけど、もっといい仕事をするためには?もっと上手くやるには?というフィードバックが貰えて、そのアドバイスに対して実践してみて、その経験がスキルになっていく、人の成長につながっていく。
そしてそれは、この会社で仕事をするなら当たり前だよね、となってくると文化として根付いたっていう感じになるよね。
エンジニアリングの文化
すずけん:改めて、良いエンジニアリングの文化を作って、根付かせることって大変なんだなと思いました。小賀さんは、元からあったものを言語化してブーストしたイメージなんですけど、上手く文化を作れた感覚はありますか?
小賀:プロダクトマネジメントや経営と一緒で、やりたいこと、やらなきゃいけないことがいっぱいある中で、大事なのは優先順位付け。 何の優先順位が高いのか、なぜ高いのか、いろんなことを言語化して議論して価値観が揃って、結果的に文化になったという感じかなと思います。
すずけん:社内のエンジニアって、評価制度や価値観についても日常的に議論するじゃないですか。当事者意識を持って議論するのは根付いてますよね。
小賀:そうだね。
すずけん:みんな同じプロセスで技術力評価会をやってるから、チームが別でも技術力評価会の改善や、自分たちの価値観について議論は普段からしてますし、AJITOで飲んでてもしますし、それは根付いていて凄いなって思ってます。
小賀:そうそう。割とコミュニケーションのベースになっているところもあって、ちょっと議論が始まると「あ、これって(技術力)評価会っぽい」みたいな(笑)
すずけん:わかります(笑)割と多くの人が評価者の経験をしているんで。
小賀:そういう意味では「本質を議論する」スキルと経験が、すごく溜まっている組織だなと思うよね。
すずけん:わかります。
実際にこの10年で変わったこと
優秀なエンジニアが増えた
すずけん:改めて振り返ると、この10年でどういう変化が起きましたか?
小賀:まずは、優秀なエンジニアが増えました。
中途採用で色んな経験をされた方が入ってきて、活躍してくれています。長く活躍してくれている人が多いのは、本当にありがたいなと。
それとは別に嬉しいのが、学生からの1社目にうちを選んでくれた人たちが、経験を積んですごく成長したこと。新卒採用に力を入れてやってきたので、新卒たちが力をつけていろんな部署やチームで中核人材になっていった、これはすごく嬉しいなと思うよね。数字で見ても本当に増えてるし、しっかり成長している。
なんでそういった人が増えたかというと、事業が伸びて10年以上も続くサービスやプロダクトがいくつも出てきたから。長い間、市場環境に合わせながら成長していこうとすると、難しい課題が山のように出てくるんだよね。優秀な人が成長できるだけの難しい課題と向き合う機会があって、その課題をクリアすると、ちゃんと儲かる形でプロダクトやサービスが継続できた。
この10年、事業が成長し続けて、人もちゃんと成長した。これが10年前より変わったことかなって思います。
すずけん:うんうん。
小賀:優秀な人が増えて経験を積み重ねることで、組織的にここまではやれて当たり前だよねという基準がすごく上がった。その当たり前基準が上がる事によって、使ってる技術スタックや開発プロセスも、世の中の変化に合わせて新しいものを取り入れて、組織として成長していく。その土台が作れたのが、この10年なんじゃないかなと思います。
大きな変化にも適応できるチームへ
すずけん:10年というスパンで事業も技術も大きな変化があって、そんな中でちゃんと自分たちも変われているのは凄いですよね。
小賀:そうだね。例えばクラウドサービスが社会インフラになっていくのは、そうなるだろうなとは思っていたけど、ここまで来たかとは思うし。最近、fluctでもオンプレから完全に脱却したけど、オンプレから始まって変化していって、クラウドファーストにプロダクトを開発していくことが組織としてできるようになっている。
できるエンジニアの密度が高い組織で、さらに新たに入ってきた人も成長することがセットでできたかなと思います。
すずけん:実験とセットでやってますけど、全ての技術にみんな食いつくわけではなくて、使えそうなものを上手くピックアップして、プロダクトに取り入れていくのは各チームですごくやっていますね。
外から知恵を取り入れることが、至る所で自発的に起きていくのは見ていて凄いなと。
小賀:そうだね。採用や評価の軸の中でも、知的好奇心から新しいものを試すことに高い評価をしている。そしてフィードバックとして「それは良い動きだね、良い考え方だね」としているのが、まずあると思います。
もう一つ、組織的な話でいうと、新しい技術を使わず、今あるもので機能を増やしていくことを優先しすぎると後で辛くなる、ということをエンジニアではない役員も身に染みてわかってる。
すずけん:いやー、そうですねー。
小賀:だから、そこに取り組むっていうことに対してポジティブなんだよね。
そこは、会社としての強さだと思う。事業系の人たちも自分たちのサービスを伸ばしていくにあたって、以前よりリリース速度が遅くなっているのはなぜか?を真剣に考えて、エンジニアたちと話をして、「ああ、やっぱり内部品質への投資はすごく重要なんだな」ということをちゃんと理解していった。
エンジニアから具体的にどう解決するかまでは話してないけど、内部品質というものが中長期的に効いてくるのは、苦しい経験から学んだし、職種を越えてちゃんとリスペクトし合って議論するからこそ、理解してもらってると思います。
CTOの交代
すずけん:CTOを退任されようと思ったきっかけってなんだったんですか?
小賀:一番大きいのは本当に個人的な理由で、やっぱり年齢が一番大きいですよね。今年50歳という大台にのったこともあって、そこが考えるきっかけにはなったなと思うんです。
ただ、元々宇佐美さんとは、CTOをすずけんにする方がCARTA HOLDINGSにとってより良いだろう、という話はずっとしていました。私も責任ある立場としてやってきたと思っていますが、少なくともCTOに関しては、すずけんがやるべきだと思っていました。
これまで、CTOといいながら幅広い領域をやっちゃったというか。10年も役員やってると幅広くなってくんですよ。自然と(笑)
すずけん:自然と(笑)
小賀:CTOは経営陣の一人として、テクノロジーで事業や経営をドライブしていく役割。
エンジニアの人数も増えていく中で、文化作りや採用・育成・評価をやるVPoEみたいな領域もやってきたし。また社内の情報基盤を扱う部署の管轄役員、いわゆるCIOの領域とか、情報セキュリティ委員長といういわゆるCISOの領域もやってきました。
でも、正社員だけで1500人を超えるCARTA HOLDINGSという規模になった時、それぞれの領域に専任がいてドライブをかけていくべきだろうと。中でも、テクノロジーで事業・経営をドライブしてくCTOの役割は、すずけんにやってもらいたいと考えていました。なので、今回のタイミングですずけんに。
推薦を受けて
すずけん:聞いた時はびっくりしました。でも、今の開発の文化は好きで、ここからも大事に伸ばしていきたい。今いるエンジニアたちの顔が浮かんできて、小賀さんが退任するならやらなきゃなと思いました。 でも、やってもらいたいといってもらえるのは嬉しいですけど、正直、小賀さんがすごく幅広く仕事をしてたので、最初は不安はあって。
小賀:CTOを交代となった時、10年で少しずつ広がってきた役割の全部を、一気に一人に渡すのは難しいと思うんですよね。だから今回、交代の引き継ぎの中で役割分担が進んだのは、これからにとってプラスだと思います。
すずけん:実際、引き継ぎをここ何ヶ月かで進めていて、改めて小賀さんはこんなに仕事してたんだ、これはなんで一人で出来てたんだろう?って思うことが多かったです。 僕はずっと事業開発領域にいたので、みんなが働くためのIT基盤やセキュリティも利用者としては知ってるけど、どんなことをやっていたか詳しく知らなかったので「ああ、こういうこともやっていたんだ」と。 でも一方で、小賀さんがいろんな仕事をする上でのスタンスは、大きく変わらないんだなって思いました。それぞれの領域で、いろんな人を巻き込みながらやっていたので。小賀さんと一緒にやってきた人たちと会話をする中で、改めて小賀さんを発見していますね。
小賀:領域を広げてきたから、全然飽きずに10年もやってこれたよね。でも、やるのはいいんだけど、その後にもっと任せていくことを少しずつやってこれたら良かったな、というのは反省点ではありますね。
これまでのCTOとこれからのCTO
小賀:CARTA HOLDINGSって、3〜4年ごとに大きなことが起こるじゃないですか(笑)
MBOして、上場して、大きい会社のM&Aやって、今度は経営統合してと。ある程度は複数の役割を一人が束ねて、意思決定を早くして進めていくのが合理的なところも若干あって、その時々は自分が持ってもいいかな思ったけど、今だと持ちすぎてるし、渡しづらくなってるところは課題でした。
でも、2022年からの新しいフォーメーションを見ると、これは今より上手くもっと良くできるんじゃないかなって思っています。
すずけん:同じやり方はできないので...。いろいろ仕込みつつ体制を作っているところで、改めて分解して、リファクタリングして、組み直すことを現在進行形でやっています。 中で働いている人たちに向けて、僕なりに価値を出せるように考えながら作っているので。「小賀さん、安心して!送り出します!」ができるようにしよう思っています。
小賀:すずけんのCTO領域もそうだし、今まで私がやってきたCTOという領域から切り出した部分も新しい体制になって、2022年から一つのCARTA HOLDINGSになる。 1500人から2000人の規模を考えると、役割分担して進めるのは良い方向に行くと思います。
これから
すずけん:小賀さんがこの後、なにをやるのか興味があるんですけど。
小賀:すずけんがCTOになって立ち上げた「Tech Board」という組織のアドバイザリとして関わっていきます。私が考えていたことを少しずつ伝えたり、社外の力や情報だったり、ナレッジみたいなものをもっとCARTA HOLDINGSに取り入れる、そこを頑張っていくのがいいんだろうなぁと思ってます。
すずけん:はい。
小賀:また、私が初代CTOだったということもあり、私が抱えていた課題について、社内には経験のある人がいないことがありました。そこで、他の会社のCTOと情報交換することを社外活動としてやってました。気づいたらネットワークが広がって、日本CTO協会という協会まで立ち上げたんだけど。
そういう社外活動をやっていると、CARTA HOLDINGSですごく上手くいっている。ITとかソフトウェアをベースとしたエンジニアリングの力を活かして事業を成長させていくことって、日本の社会全体で見ると、またまだやれてない領域って結構あるんだなってことが見えてきたんだよね。
退任のきっかけは年齢と話をしましたが、50歳になって健康で週5日働けるであろうこれからの5年10年で何をやるか考えた時、ITがうまく活かせていない領域にチャレンジしたいなと思ったんですね。そういった方向で考えていきます。
すずけん to 小賀さん
すずけん:小賀さんの仕事を10年間以上に渡って見てきて、改めて「本当にありがとうございます!」ということがまず1番です。本当に人が育つ環境を作ってくれたし、いろんな話を親身にフラットに相談させてもらってきました。
そして、小賀さんの新しい挑戦を素直に応援したい気持ちはずっと一緒なので、「本当にお疲れ様でした!」といいたいです。
小賀:そういってもらえると、本当に嬉しいな。
後編はこちら:新旧CTO対談 後編「これからのCARTAエンジニアリング」
お知らせ
2022年2月18日のDevelopers Summit(デブサミ)に、新CTO鈴木と前CTO小賀が登壇いたします。
2022年からCTO交代!新旧CTOが語るこれまでの10年とこれからのエンジニア組織と文化
この記事はCARTAのオウンドメディア「EVOLUTiON」との連動企画です。
新旧CTOが語るCARTAのエンジニアリング、そして未来―「事業を推進できるエンジニアを育てたい」