
はじめに
CARTAの広範なデジタルマーケティング商流を担うCARTA ZERO。その中核でSNS運用コンサルティングサービスを担うのが「Social AdTrim」です。AdTrimの開発チームでは、「言われたものを作る開発」とは対極にある「企画から改善まで“全部やる”フルサイクル開発」 が実践されています。
「”速度”は信頼を勝ち得る最大の武器」と語るPM兼エンジニアのAdTrim開発部長 宇治川は、いかにして裁量とスピードを両立させているのでしょうか。
本記事では、CARTA ZERO CTO 河村が組織の全体像とエンジニアリング文化を、続いて宇治川がAdTrim開発の裏側にある技術スタックと事業を進化させるためのマインドセットについて深掘りします。
ZEROの全体像と Social AdTrimの立ち位置
-- まずは、CARTA ZEROのCTOである河村さんから、CARTA ZEROの全体像と、その中でのSocial AdTrimの立ち位置について教えていただけますか?
河村: はい。CARTA ZEROは2025年にCCI、CARTA MARKETING FIRM、Barrizという3社が統合してできた統合マーケティング企業です。CARTA ZEROが担うのは、広告主とメディア、そしてその先にいるエンドユーザーを繋ぐCARTAデジタルマーケティング領域における商流全体です。

「Social AdTrim」(以下、AdTrim)は、CARTA ZEROが展開するSNSマーケティングコンサルティングサービスです。クライアントが運営するSNS運用のコンサルを行うことがサービスのビジネスコアです。AdTrimが持つプロダクトはその中で、社内コンサルタントがクライアントに提案する資料やレポート作成する際の業務をサポートするSNS分析・レポート基盤を担っています。
-- 統合したばかりのCARTA ZEROですが、全社に貫通するエンジニアリング文化についてはどのようにお考えですか?
河村: エンジニア文化については、「The Zen of Zucks」という指針を掲げています。これはCARTA ZEROの前身となった「Zucks」時代から引き継がれている大事な価値観です。
CARTA ZEROは統合したばかりですので、もちろん文化が完全に刷り合っているわけではありません。むしろ、これまでの各社の文化を土台にどう「進化」させていくか、そのVisionや在り方を示し方向性を揃えている最中です。
その「進化」のために特に大事にしたいと考えているのが、自身が持つ企業人格としてのメンタルモデルや組織に横たわる暗黙の価値観を常に見直し、アップデートし続けるという自律的な姿勢です。それは、現状に甘んじることなく、時には職域や役割をも超えて「自分たちを、企業活動を進化させ続ける」という意識にも繋がるものです。
幸い、CARTAには元々「フルサイクル開発者」の在り方として、OODAループに代表されるフィードバックのサイクルを回す文化が浸透しています。現時点でどこまでできているかということよりも、この文化を基盤としながらギャップを正しく認識し、内発的な動機でフィードバックを回しながら変化し続けていくこと、それこそがCARTA ZEROとしての「進化」に繋がっていくと考えています。
-- 統合後のAdTrimの現状についても教えていただけますか?
河村: 統合の中で、AdTrim自体の改善にも取り組んできました。長年の開発で技術的負債が溜まっていましたが、それらを宇治川さんが上半期でリファクタリングし終えてくれました。まさに”今から”本格的に事業進化のための武器を作り、クライアントに提供していく段階ですね。
-- ありがとうございます。では次に、AdTrimの開発をリードされている宇治川さんにお伺いします。具体的にどのようなプロダクトなのでしょうか?
宇治川: はい、よろしくお願いします。先ほど河村さんから話があった通り、CARTA ZEROはデジタルマーケティングの商流全体を担っています。その中で、AdTrimはクライアントのSNS運用を支えるサービスであり、私が開発しているプロダクトは社内コンサルが利用する社内向けプロダクトです。

具体的には、社内コンサル向けに、主要SNSの横断分析やレポートの自動生成機能を提供するプロダクトです。現在は、X(旧Twitter)、TikTok、Instagram、Facebookに対応しています。今後、サービスの成長に伴いBeReal、Pinterestなどさらに多くのプラットフォームに対応する予定です。

主に社内のコンサルタントがSNSを運用するクライアントと対話するための情報を得るためのツールです。
-- 具体的にどのような役割なのでしょうか?
宇治川: AdTrimのコンサルティングフローは、大きく「01. 戦略立案」「02. 施策立案」「03. 施策実行」「04. レポート分析」に分かれます。これはサービス全体が持つ流れ、と言えます。

その中で、我々が開発するプロダクト「AdTrim」は、このフローの入り口と出口を担っています。

入り口である「01. 戦略立案」では、「0次分析機能」を提供します。具体的には、2つ機能があります。1つ目は業種・業界別分析機能です。こちらはクライアントが属する市場のトレンドを把握が可能です。2つ目は競合分析機能。こちらは他社との比較を行うことで、現状の課題を明確化します。これにより、コンサルタントがクライアントに対してデータドリブンで適切なKPIを提案することができます。
そして出口である「04. レポート分析」では、接続したSNSのデータを統括し、横断的に視覚化するレポート機能があります。社内コンサルはその数字を見て、クライアントにSNSの投稿リーチ数やエンゲージメント率、フォロワー推移などを統合的にフィードバック・提案できる作りになっています。
-- なるほど。クライアントが直接触るプロダクトではなく、あくまで社内コンサルタントがクライアントへ提案するアイディアの質を高めるために使うツールという位置づけなんですね。
宇治川: はい。単なる分析ツールではなく、コンサルタントがクライアントに高い価値を提供し、ビジネスを推進するための武器として機能しています。
「言われたものを作る」ではない"フルサイクル"な開発体制
-- ありがとうございます。話は変わりますが、エンジニアのキャリアを考える上で「裁量」は重要なテーマです。特に、経験を積むにつれて「言われたものを作るだけ」の開発スタイルに課題を感じる方も多いと聞きます。AdTrimの開発体制は、その点いかがでしょうか?
宇治川: AdTrimは、その悩みとは真逆の環境だと思います。我々は「フルサイクル」な開発体制を敷いており、エンジニアが”全部やる”のが基本です。

-- “全部やる”というのは、具体的にどの範囲まで担当されるんですか?
宇治川: まず、ユーザーであるコンサルタントからふわっとした要望がSlackで寄せられるところから始まります。それを元に、エンジニアが企画、要件定義、画面イメージ、アーキテクチャ設計を行い、開発・テストコード作成・リリース・モニタリング・改善プロセスまでを一貫して担当します。
-- まさに「言われたものを作る」開発とは対極ですね。社内コンサルタントとは、かなり密に連携されているのでしょうか?
宇治川: そうですね。会議体は夕会と2週間に1回の定例くらいで、基本はSlackでの非同期コミュニケーションが中心です。非同期コミュニケーションがメインとは言いつつ、コンサルから連絡が来たら個々のエンジニアが即答していくようなスピード感がある雰囲気です。
-- 具体的にはどんな連携をしていますか?
宇治川: 最近あった出来事で言うと、ある日、社内コンサルから「クライアントの要望で、Excelレポートに特定のカラムを追加してほしい」というざっくりしたお題がSlackで来ました。よくよく話を聞くと、これは単なる改修ではなく「この機能が実現できるかどうかでクライアントから受注できるか失注するかが決まる」という、事業インパクトが非常に大きい案件だったんです。
-- それはプレッシャーがかかると同時にチャンスな局面ですね。
宇治川: はい。そこで社内コンサルとSlack上で密に仕様を詰め、開発・検証を進めました。実装〜クライアント確認を含めて、最終的に5営業日ほどでリリースすることができました。結果として、クライアントのニーズに即座に応え、無事に案件を勝ち取ることができた。自分たちの開発が、直接受注という事業成果に繋がった瞬間でしたね。
– 他に開発スタイルとして大切にしていることはありますか?
宇治川: 以前はスクラム開発を試した時期もあったのですが、「スクラムを成功させるための開発」になってしまった反省から今は特定のフレームワークにこだわっていません。「事業をどう伸ばすか」を最優先する「事業目的達成型思考」を大切にしています。
-- 「事業目的達成型思考」とはなんですか?
宇治川: はい。これは自分が創った言葉なのですが、事業を伸ばすためにエンジニアリングする思考を表している造語です。端的に言えば固定期間に縛られないリリースや市場投入までの時間短縮を重視するスタイルと言えるでしょうか。

これはチームのWikiなのですが、常に意識したいことを明記して、チーム内で共有しています。開発の速度を上げ安定稼働させたうえでリリース速度を上げていく、その結果として事業が伸びる。その意識で開発を行っています。
事業の"速度"を支えるモダンな技術スタックと開発への"こだわり"
-- 「社内ツール」と聞くと、技術スタックが古いのでは?というイメージを持つエンジニアもいるかもしれません。その辺はいかがでしょうか?
宇治川: そうですね、どちらかというとモダンスタックだと思います。アーキテクチャはAWSを前提としており、フロントエンドとバックエンド、バッチ処理はNuxt.jsで構築しています。

-- Nuxt.jsを選定されたのは、どういった理由があったのでしょうか?
宇治川: プロダクトの初期開発当時はとにかく短納期での開発・リリースが求められていました。当時、Nuxtを触ったことがあるメンバーがいた点、TypeScriptを採用することで保守性や可読性を担保できる点が技術選定の決め手になりました。
-- 他にも特徴的な技術スタックはありますか?
宇治川: 認証基盤にはAuth0を採用しています。これは他社のダッシュボードをリバースエンジニアリングして「イケてるぞ」となったのがきっかけです。また、インフラはECS、ECRを使い、デプロイはGitHub Workflowsで自動化しています。
-- モダンな構成ですね。技術面で特にこだわっているポイントがあれば教えてください。
宇治川: 一言でいえば「ボタンポチで完結するシステム」です。デプロイやリリースなど、コマンドを打つ必要性を極端に少なくしています。
-- そのこだわりには、どういった背景があるのでしょうか?
宇治川: 理由は3つあります。 1つ目は「メンバーの心理的安全性の担保」。誰でも安心してリリースできるようにしたかった。 2つ目は「説明コストの削減」。新メンバーに複雑なコマンドを教えるより「このボタンを押せばいい」と言う方が圧倒的に早い。 3つ目は、もちろん「開発スピードの向上」です。
先ほどの「5営業日でリリース」というスピード感も、日々こだわって作っているアーキテクチャに支えられて実現できています。
統合がもたらした「組織力」と「文化の言語化」
-- 2025年に3社が統合してCARTA ZEROとなりましたが、組織や開発環境にはどのようなポジティブな変化がありましたか?
宇治川: これはどちらかというと、ZEROとしての統合というよりはCARTA統合の影響かもしれませんが、統合後の開発スピードはむしろ加速しました。最新ツールの導入や学習の機会が増え、常に新しいことを試せる環境が整っています。
-- スピードが加速した、というのは具体的にどういうことでしょう?
宇治川: 以前は、新しい技術やツールを試したくても、自分で情報をキャッチし、利用費用も自己負担になることが多く、込み入った検証は困難でした。
統合後は、もちろん自分でキャッチアップもしますが、それに加えて組織が最新情報をプッシュしてくれます。例えばAI CoE組織「CARTA Generative AI Lab」が新しいAIツールを導入・サーバー構築を行ってくれるため、Dify、n8nなどのAIツールが組織からすぐに提供され、私たちはそれに乗っかってどんどん試すことができます。
Claude CodeやGeminiなども使えます。検証環境やコストを組織単位で担ってくれているため、自分の財布からお金が出ていくこともなくとてもありがたいです。
-- 組織的なバックアップが格段に手厚くなったんですね。
宇治川: はい。また、「The Zen of Zucks」のような開発の行動指針がCARTA ZERO全社的に提供されたことも大きいです。
-- それはどのような指針なのでしょうか?
宇治川: 例えば「Issueからはじめよ」という文化があります。どんなに軽い問い合わせでもIssue化することでナレッジを蓄積していく文化です。

これは私自身、元々「やったほうがいい」と思っていたことですが、その理由をうまく言語化できずにいました。それが組織の指針として明文化されたことで、チームにも「ここに書いてあるからやろう」と伝えやすくなりました。個人的に大事にしていたポリシーが、組織として大事にするものに格上げされた感覚です。判断に迷ったときの拠り所ができたのは、非常にポジティブな変化ですね。
PMからエンジニアへ。事業貢献の「速度」を追求するキャリア
-- 宇治川さんご自身のキャリアについてもお伺いしたいです。PM(プロダクトマネージャー)からエンジニア兼PdMになったという、ユニークな経歴をお持ちですね。
宇治川: もともと大学は情報理工学部出身で、個人でiOSアプリを開発したりもしていました。2017年に入社して、最初の1年は「ジュニアプロダクトオーナー」として、メインPMの補佐をしながら5つほどのプロダクトを掛け持ちし、要件定義やクライアント折衝を学びました。
-- 最初のキャリアはPMだったんですね。
宇治川: はい。2018年からは「プロダクトオーナー」として自社プロダクト2つをメインで担当しました。そして2020年に今お話ししている「Social AdTrim」をゼロから立ち上げることになったんです。
-- そこでエンジニアに転身された?
宇治川: はい、プロダクトマネージャー兼エンジニアとして、自分で手を動かすことにしました。理由はいくつかありますが、一番は「速度を上げたかった」からです。PMとして要件を定義しても、それがいつプロダクトとして上がってくるかわからない状況がありました。
大学時代にプログラミング経験はありましたし、「業務委託の方を入れながら自分で創っていくほうがスピードが出るのでは?」と思いプロダクト開発も担うようになりました。また、PMだけでなくエンジニアリングも行うことで、自身のキャリアの幅を広げたいという思いもありました。
-- 現在は、PMとエンジニアの両方をうまく両立できている感覚ですか?
宇治川: 両立できている感覚はありますね。それも、先ほどお話ししたようなモダンなアーキテクチャに支えられている部分が大きいです。
-- 宇治川さんが仕事をしていて、最も楽しい”やりがい”を感じる瞬間はどんな時ですか?
宇治川: やはり、自分が企画した機能がコンサルティング事業部で実際に使われて「事業の価値創造に貢献できている」と実感できた時ですね。
もともとビジネスの話が好きなんです。根底にあるのは「会社から給料をもらっている以上、何かしらの形で事業価値の創造に貢献したい」という思いがあります。
それは直接的な売上貢献でも、間接的な業務効率化でも構わないので、とにかく、自分の仕事が会社の事業成長につながっているという実感を持てることです。その中でも、売上という形で目に見える成果が出た時は、価値創造への貢献を最も分かりやすく感じられる瞬間だと思っています。
-- キャリアを通じて一貫して「速度」にこだわられている理由も、そこに繋がるのでしょうか。
宇治川: まさしく。私にとって「速度」は、信頼を勝ち得る最大の武器だと思っています。それはクライアントに対しても、社内に対しても同じです。確認や要望をもらった時に、どれだけスピード感を持って応えられるか。それが人としての信頼に直結すると信じています。
-- なるほど。河村さん、宇治川さんありがとうございました。
河村・宇治川: ありがとうございました。



