今回は先月発表されたUID2.0のオープンソース化についてIAB Tech Labによる今後の方向性の説明を交えて紹介します。
Unified ID 2.0とは
プライバシー重視の機運が高まり、SafariやFirefoxなどのブラウザがサードパーティCookieを無効化したり、GoogleもChromeでのサードパーティCookieを2022年に廃止すると発表したりするなど、これまでの広告ターゲティングやアトリビューション、計測方法が大きく変わろうとしている中で、サードパーティCookieの代替手段として「共通ID/統合ID」ソリューションが注目されるようになってきました。
そのひとつが米国大手DSPのThe Trade Desk(TTD)が提唱・開発している「Unified ID 2.0(UID2.0)」です。これはパブリッシャーや広告主が保有するメールアドレスなどのファーストパーティデータをキーにIDを発行し、暗号化したものを統合サーバーで管理することで、ユーザー識別、ひいてはターゲティング配信などに利用しようとするものです。The Trade Deskは当初からUID 2.0を中立的に広告エコシステム全体で広く利用できるものとして開発していましたが、5月24日、正式にオープンソース化されたことが発表されました。
Unified ID 2.0のオープンソース化について
それではIABTech Labによるブログ記事を元に、今回のオープンソース化が何を意味するのか見ていきましょう。
IAB Tech Labによると、今回のオープンソース化のポイントは主に以下の点です:
- UID 2.0は、独自のイノベーションと業界の成長を促進するための相互運用可能なインフラとして開発が進められているが、正式にオープンソースとなったことにより、誰もがアップデートや変更を提案して機能追加し、プロジェクトをサポートすることができる。
- 今後UID 2.0の技術開発は、IAB Tech LabのアドレサビリティワーキンググループとPrivacy & Rearc コミットグループが指揮していく。
- The Trade Deskは、引き続きUID 2.0に対して「貢献者(contributor)」として、業界の同業者と協力し広く採用されるために関与していく。
- Prebid.orgは、引き続きUID 2.0の「オペレーター(operator)」組織のひとつであり続け、UID 2.0の仕様に基づきIDトークンを生成する役割を担う。
- 今回のオープンソース化は非常に大きなマイルストーンだが、IAB Tech Labによるアドレサビリティ、プライバシー、アカウンタビリティに関する技術標準およびガイドラインドラフトの最終化、PRAMのポリシーガイダンスのリリース、(「管理者(administrator)」としての役割を含む)UID 2.0アーキテクチャへの更なる業界の関与など、今後も様々なマイルストーンが控えている。
業界にとっての価値
UID 2.0 がオープンソース化し普及していくことで、デジタル広告エコシステムにとってはどんなメリットがあるのでしょうか。
オーディエンス情報を広告主からパブリッシャーへ、またはその逆に受け渡すことは、今まさに業界をあげて取り組まれているCookie/識別子周辺の変更の中でも大きな課題のひとつとなっています。UID 2.0は当初より、広告主やパブリッシャーが(ユーザーやブランド側から許可された場合に)オーディエンスの接続を可能にする基準を提供することを目的として設計されましたが、UID 2.0自体はサードパーティCookieやモバイル広告IDの代替となるものではなく、エコシステムが新しい持続可能なアドレサビリティーの形に向かっていく中での様々なアプローチの一つとなる、とIAB Tech Labは述べています。
現在、UID2.0のサービスは最新版の仕様のもとで稼働し、初期段階のマーケットテストが行われているとのことですが、UID 2.0が利用可能になることで広告主は以下のことが可能になります:
- クロスサイト/アプリのリーチ推定
- デジタルコンテンツ全体のフリークエンシーキャップの管理とリーセンシーのコントロール
- ターゲティング可能なオーディエンスセグメントの作成
- コンバージョンのアトリビューションとROAS(広告費用対効果)の測定
- 広告キャンペーンをユーザーのライフタイムバリュー(LTV)に結びつけた分析
ここで重要なのは、今日のUID 2.0の設計が、広告主やパブリッシャーが多数の商用ユーザーIDソリューションプロバイダーと相互運用するための方法を提供していることだそうです。UID 2.0は商用IDソリューションと競合するものではなく、パブリッシャーや広告主が選択した商用IDソリューションと接続するためのプラットフォームであるということです。
UID 2.0の今後の展開
今回のUID2.0のコード提供からオープンソース化への流れは、デジタル広告業界が所有・運営する完全にオープンなUID 2.0ソリューションに向けた大きな一歩ですが、最終段階ではありません。TTDでは、UID 2.0の最新の仕様に基づいてサービスを提供していますが、これは、UID2.0が軌道に乗るまでの一時的な運用であるということです。具体的には、「管理者(Administrator)」と「監査役(Auditor)」の役割をアサインし、それに従い監視を行っていくことなどが必要となります。管理者については、今後IAB Tech Labがその役を担う可能性がありそうだということが示唆されています。
また、Tech Labのワーキンググループでは、UID 2.0が最近ドラフトとして発表された関連規格にもとづき確実に相互運用できるようにすることを非常に重要視しているということで、例えばIAB Tech Labが先日ドラフトを発表したAccountability Platform(説明責任プラットフォーム)のようなメカニズムによってサポートされることが重要であると述べています。
Unified ID 2.0をサポートしている企業
最近になってSSPなどの広告プラットフォーム企業が続々とUnified ID 2.0のサポートを発表していますが、今後スケールするためにはより多くのパブリッシャー側からの参画が重要になってくるでしょう。現時点でUID2.0をサポートしている、またはサポートを表明している企業はTTDのウェブサイトから確認できます。
SSP/DSP:Magnite、OpenX、IndexExchange、PubMatic、SpotX、UNRULY、xandr、Fluct、YieldOne、Ad Generation、AJA、BidSwitch、freakout、Criteo など
データ・計測ベンダー:ニールセン、Comscore、TAPAD など
パブリッシャー:The Washington Post、Rolling Stone、tubi、BuzzFeed(米)など
参考
IAB Tech Lab ブログ:
https://iabtechlab.com/blog/the-impact-of-the-trade-desk-contributing-uid-2-0-for-industry-development/
IAB Tech Labについて
IAB Tech Lab (The IAB Technology Laboratory) は、米国のインタラクティブ広告業界団体であるIABが設立した、デジタルメディアとデジタル広告業界におけるグローバルな技術標準の確立と導入を促進するための国際的な研究・開発のコンソーシアムです。CCIは2017年1月からTech Lab会員となっています。